2017年11月26日、アートスタディールームにて<インタビュー講座>が行われました。講師は、働き方研究家/リビングワールド代表の西村佳哲さん。集まったのは、アート・コミュニケータと現役のとびラーあわせて70名です。久しぶりに再会するアート・コミュニケータもいて、会場は和気あいあいと賑わっています。
今回の講座は、インタビューの要、人の話を聞くということにフォーカスし、1時間半のなかでワークショップをします。
「まずは“人間彫刻”の撮影をします」と西村さんが言い、「彫刻?」とザワつくアート・コミュニケータたち。これは、人の話を聞いている理想の状態を自分なりに考えて、彫刻のようにポーズをとり、スマートフォンで撮影するというもの。聞く役、話す役、撮影する役の3人1組になって撮影します。
そして講座を終えてからもう一度同じテーマで撮影をし、ポーズに変化があれば、自分のなかで何かが動いた証になります。時間は10分。さあどうぞ。
正面から向き合う人もいれば、寄り添うようにして耳を傾ける人もいます。思い描いた理想の状態が、講座を通してどのように変化するでしょうか。
今回のプログラムでは、西村さんがアート・コミュニケータに、話を聞くことについて3つのポイントを投げかけます。アート・コミュニケータは、先ほどと同じ要領で、聞く役、話す役、見ている役の3人1組になり、西村さんの投げかけを受け取るたびに、その場でインタビューを実践します。
さらにポイントごとに役割を交代し、それぞれの視点から感想や発見したことを共有します。一見ヒマそうな見ている役もじつは重要で、ちょっと離れたところにいるからこそ分かることもあるのだとか。
ポイント1 邪魔しない
インタビューで聞き手が話を遮ってしまうことは意外と多いと西村さんは言います。とくに気をつけたいのが、よかれと思ってしてしまう邪魔。話し手のなかにまだ言葉が用意されておらず「なんていうか・・・」と探している時、つい「こういうこと?」と質問してしまうパターンです。
「人には、感覚にフィットする言葉で、自分のことをなるべく正確に表現したいという欲求があると思うんです」(西村さん)
たとえネガティブな内容でも、ぴったりの言葉が見つかった時、話し手が嬉しそうにしている様子を、西村さんはインタビューの仕事のなかで見てきたそう。
ただ、話し手がじっくり言葉を探している間は、沈黙が訪れます。これが、聞き手にとって、だんだん耐えがたい圧になってきます。テレビやラジオでも沈黙が続くと放送事故とみなされるように、私たちは長い沈黙に慣れていません。聞き手はつい「質問がよくなかったかな」などと考え、「こういうことですよね?」「こういう点からはどうですか」と、助け船のつもりで口出ししてしまいます。
すると話し手は、自分の内側へ意識を向けて言葉を探していたのに、新しい質問が入ってきたことによって、外側へ意識を戻されます。探していた言葉は、見つからないままになってしまいます。
このポイントについて、思ったことをグループで共有してから、実際にインタビューをしてみます。お題は「最近ちょっと困っていること」。
見ている役の視線にやや緊張しながらも、インタビューをはじめるアート・コミュニケータたち。話す役は一生懸命伝えようとし、聞く役は真摯に聞き入ります。どのグループも、楽しそうです。
終了したら、インタビューをふりかえります。見ている役にどう写ったか、話す役は聞いてもらっている感覚があったか。「あの時の相づちはよかった」「こう質問してくれたから、話しやすかった」など、答え合わせをするようにやりとりを分析します。話はつきませんが、ここで1回目のターンが終了です。
ポイント2 最後まで聞く
話を最後まで聞くのは当たり前のことですが、意外とできていないと西村さん。
「例えば病気の話をされた時、自分も同じ経験があると、大抵最後まで聞きません(笑)。自分のことを言いたくて、話の切れ目を探している状態になります」
心当たりがあるのか、会場から「あー」という声があがります。
その人が話したいことや表現したいことは、最後まで聞かないと分からないはずですが、私たちは自分の体験に置き換えて、すぐに「分かる分かる」と言ってしまいがちです。
ここで西村さんは、若い頃の思い出話をしました。
「会社員になったばかりの頃、初めて付き合った女の子とデートをしました。当時は車を持っていなかったので、彼女のお父さんから車を借りて、246を走っていたんですね。そしたら、信号の手前で、前に止まっていたタクシーに当てちゃったんですよ」
聞いている方は、「お父さんには何て言ったのか」「その子とはどうなったのか」などと、自然と質問が浮かびます。しかし、「それらは聞き手が関心を持った部分であって、本体ではない」と西村さん。肝心なのは、最後の「ちゃったんですよ」の部分だといいます。
というのも、語尾には、話した内容について本人がいまどんな気持ちでいるかが現れています。言葉だけでなく、声や表情、姿勢なども一緒に観察すると、恥ずかしい、後悔しているといった、心の動きが見えてきます。
一方、語尾までの内容は、過去の説明です。聞く人は、話す人の過去ではなく、いまの状態に関心を持というというわけです。
再びグループで思ったことを共有します。なんとなく分かる気がしても、実際に自分ができるかどうか、自信がなさそうな人もちらほら。いったん目を閉じて心を静かに整えてから、2回目のインタビューをスタート。
話す役にも、饒舌な人もいれば、言葉がなかなか出てこない人もいます。聞く役は、相手のペースを受け入れ、相づちや表情などで「私は聞いている」という合図を送りながら、話の邪魔をしないよう、さりげなく気をつけています。語尾、つまり相手のいまに意識を向けながら聞くとはどういうことか、それぞれがつかもうとしています。
ポイント3 内容より気持ちに関心を持つ
西村さんはホワイトボードに人の絵を描き、言葉が体のどこから来ているのか説明しはじめました。
「人は喉を使って2種類の言葉を話していると思います。ひとつは、事柄や思考を説明する言葉。これらは、脳の方から来ている感じがあります。でも、実際に喉の奥には、気道や食道を通った先に、胸や腹があります。『胸の奥で』とか『腹の底から』と私たちは言いますよね。そこに空間があるということです」
そして西村さんは、脳ではなく体の中心にある空間からあがってくる言葉が、もうひとつの言葉の種類、気持ちや感覚、実感なのだといいます。
胸や腹にある何かは、最初は言葉になっていません。まずは感情として形容詞化されてから、外からの考え方を取り入れたりしながら、思考になっていくのだそう。
「思考はお皿に載ったお寿司みたいなもので、出しやすい。けれど、情報処理の過程を考えると、ちょっと古いんです。鮮度のいいジャストナウはこっちにあります」
そう言って、西村さんはホワイトボードに描いた人の絵の、お腹の方を指します。
さらに、人はずっと頭で話していると、どんなに内容が面白くても、エネルギーが下がってくるといいます。
「『なんていうか・・・』と、体の中におりていって言葉を探している時の方が、エネルギーが高い。話し終わって『全然まとまらない話になっちゃった』なんて言っていても、テープおこしをすると、核になるものをつかまえようとしていて、まとめるとすごく面白い」(西村さん)
「その人の、その時のありようにくっついていくと、コミュニケーションの質が変わってきます。そういう“聞く”ということを、考えてみない? これが投げかけです。どう思うか、共有してください」(西村さん)
まさにいま、体の内部空間に、言葉になる以前の何かが生まれたのかもしれません。アート・コミュニケータたちは少し間があってから、話しはじめました。
ストンと腑に落ちたように晴れやかな表情をしている人、まだまだ飲み込めない表情をしている人。卒業したとびラーで、西村さんの基礎講座で学んだことを改めて思い出したと言う人もいました。
3つのポイントが出揃ったところで、次は最後の実践ですが、「ごめん、時間切れになっちゃった(笑)」と西村さん。会場は笑いに包まれます。
あっという間の1時間半、プログラムはひとまずここでおしまい。あとは各グループで自主的にインタビューをすることになりました。1回目のターンよりも聞くことについて理解を深めたアート・コミュニケータたち。自らの聞き方に、すぐに変化を感じられた人もいれば、そうでない人もいるでしょう。今日受け取った投げかけは、一人ひとりの今後のコミュニケーションにおいて、じんわりと活きてくるのだろうと思います。
そうそう、最後に人間彫刻の写真を見直すのもお忘れなく。
(テキスト・構成 吉田真緒)